過去のいまわしい記憶からの解放

なぜ生きづらいのかという問いに答えるために、親の代までさかのぼらなければならないこともあります。モーセは、「父の咎」が子孫に否定的な影響を与えると言っています（出エジプト 20：5）。

 

子どもの頃、アルコール中毒やギャンブル好きの親を持っていた人、または親から肉体 的あるいは心理的な虐待を受けていた人、もしくは、何らかの理由で親にかまってもらえなかった人たちが告白することは、モーセのことばの正しさを証明しています。

 

愛情を注がれ大切にされることを必要としていた時期に、そうしてもらえなかった幼い心の傷は、簡単に癒されることはありません。親に拒否されたことのある人は、成人してからも、自分を好きになれず、生涯苦しむことがよくあります。

 

ここまで言われたら、じゃあ私はどうしたらいいの？という疑問が出てくるでしょう。私たちは過去を変えることはできません。しかし過去に捕われる必要もありません。実は正常な自己愛を回復する最初の一歩は、自分の過去、生い立ちを正しく見つめることから始まるのです。

 

ヨセフの家庭環境が彼の性格形成に関して多大な影響を与えたことは否めません。父親からの偏愛を受け、彼の自尊心はいびつに肥大し、他者の気持ちを察することができなくなっていました。もちろん彼が歪んだ性格を持っていたからといって、兄弟達にエジプトに売られることが正当化されるわけではありません。しかしながら、このことが彼にとってどれほどの忌まわしい記憶であったかは想像に難くないでしょう。

 

後にエジプトの宰相になり、彼が「父の全家とを忘れさせた」と言ったときは、実にエジプトに売られて 20 年もの年月が経っていたのです。最も近しい関係（ほとんどの場合家族）から受けた傷は、仮にクリスチャンになったからといっても、短期間で癒やされることはありません。しかしそれでいいのです！神はその傷を介してあなたの人生に介入しようと計画されているからです。

 

誰しも思い出したくない過去の記憶というものがあります。それはその記憶に痛みが伴っているため、思い出すたびにたまらなく不愉快な感じを抱くからです。

 

ヨセフもまた少年時代に兄たちから受けたトラウマを長く引きずっていましたが、20 年後に彼は冒頭の言葉を述べます。「父の全家」とは心の傷の原因となった彼の家族のことですが、それを「忘れさせた」というのは記憶が無くなったということではなく、その記憶から痛みが取り去られ、目を背けることなく過去を直視できるようになったことを意味します。

 

そして大切なのは、この癒しをもたらしたのはカウンセリングでもなく、自分の思い込みでもなく、神であるということです。「わたしは主、あなたをいやす者である。」（出エジプト 15:16）という言葉を思い出しましょう。肉体的なものであれ、精神的、心理的なものであれ、神が全ての癒しの根源なのです。神は私たちが、過去の苦い記憶に捕われて信仰生活を送ることを望んでおられません。確かに時間がかかりますが、神の御手がその傷に触れるなら、私たちは癒しに向けて一歩一歩進んで行くことができるのです。ただ私たちがすべきことはその傷を神に具体的に告白する（抵抗はあると思いますが・・・）ことから始まるのです。