家族から受けた傷からの解放　Part3

私たちは誰しも、自分の親を選ぶことはできません。どこかの国の王子として誕生することもあれば、生まれてすぐにゴミ箱に捨てられる子供もいるというのがこの世界の現実なのです。

 

聖書は私たちが生まれ育った環境を「父の家」と呼んでいます。ヨセフにとって、兄たちから奴隷として売られた「父の家」はまさに苦悩の象徴でした。しかし聖書に「神は傷つけるが、それを包み、打ち砕くが、その手でいやしてくださるからだ」（ヨブ 5:18)とあるように、神は時間をかけてヨセフの心を徐々に癒され、彼はついに「神は私から父の家を忘れさせた」と告白できるようになります。

 

ちなみに父の家を忘れるとは、記憶を失うということではありません。過去の出来事＋心の傷＝苦い記憶（トラウマ）ですので、苦い記憶から傷を取り去れば、それは単なる出来事の記憶になります。つまり、父の家を忘れるとは、苦い生い立ちの記憶から傷を取り去る、ということです。

 

ヨセフはある時、エジプトで自分を売った兄たちと再会します。彼はその時、何と言ったでしょうか？

 

「私はあなたがたがエジプトに売った弟のヨセフです。」（創世記45:4)

 

すごいですね！
この言葉は、普通は言えません。だって、「私はあなたが虐待した・・・です」とか、「私は兄弟と比較され、あなたが十分に愛してくれなかった・・・です」という発言は傷がうずくので、言葉に出すことさえ躊躇するのが通常の反応だからです。

 

「父の家」を思い起こすと、たまらなく不愉快になるから、記憶を封印し、抑圧し、他のことにエネルギーを注ぐことで忘れようとします。でも、それが単なる逃避でしかないことをあなたは十分に理解しているのです。

 

しかし、ヨセフのこの言葉から分かるように、神は確かにヨセフの父の家の記憶から傷を取り去られたのです。さらに、父の家からの解放の核心部分がヨセフによって語られます。彼は自分を奴隷として売った兄たちに再会したときに、次のように言ったのです。

 

「今、私をここに売ったことで心を痛めたり、怒ったりしてはなりません。神はいのちを救うために、あなたがたより先に、私を遣わしてくださったのです。」（創世記 45:5)

 

「だから、今、私をここに遣わしたのは、あなたがたではなく、 実に、神なのです。」（創世記45:8)

 

驚くべき事に、彼は自分の受けた傷の意味を、神の深遠な計画という視点で見つめ直すことができたのです。

 

ここで 2 種類の言葉の変換が認められます。「兄たちが売った」→「神が遣わした」です。主語が「兄」から「神」へ、動詞が「売った」から「遣わした」に変換されているのです。

 

ヨセフが神の許しのもとで傷が与えられ、神の計画によってエジプトに遣わされたという目的を知ったときに、彼のトラウマに対する完全な癒やしがなされたのです。

 

そしてこれこそが、皆さんひとりひとりの苦々しい「父の家」の記憶に対する最良の処方箋なのです。神はあなたが十分に愛されなかったこと、無視されたこと、兄弟と比較されて育てられたこと・・・などのような様々な出来事及び背景を全て知り、それをある目的をもって「許可」されたのです。もちろん、神は罪

 

綺麗な刺繍で織られたハンカチの裏側を見ても、何がデザインされているのかはわかりません。これがこの世界からの見方です。しかし表を見ると美しい刺繍を見ることができます。これが神の側からの見方です。刺繍に用いられる糸は明るい色だけでなく、暗い色の糸も必ず使用されています。それは刺繍の美しさをさらに引き立てることになるからです。同じように、神は私たちには理解しがたい方法で、明るい色の糸だけでなく、傷、苦悩のような暗い色の糸をも用いて、私たちの人生を美しく織り上げて下さるのです。

 

それが神の世界から私たちの人生を見たときに初めてわかる事実なのです。私たちの中に封印されていた過去が、神の光によって照らされ、自分が経験したこと全てが神の計画の中にあったことを理解するときに、私たちもヨセフと同じ解放にあずかることができるのです。